斎藤雅広デビュー30周年記念コンサート

東京文化会館小ホールで開かれた、斎藤雅広デビュー30周年記念コンサート「豪華スター共演によるフランス音楽の夕べ」を聴いてきた。

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斎藤さんを知ったのは約1年前、人形町のマンションに越してきてからだ。ある日マンションのエレベーターで「どこかで見たことある」と思う人と乗り合わせた。ネットでいろいろと検索していたらそれが斎藤さんであることが判明したのだ。

・まさひろ瓦版
http://iisirase.exblog.jp/

このブログでは人形町界隈のグルメ話をとても参考にさせてもらっていたのだが、生の演奏を聴くのは実は今回が初めてだった。「展覧会の絵」などを入れているCDは購入して聴いていたので、その技巧はぶりは分かっていたのだが、実際はどうなのだろう、と楽しみだった。

★プログラム

————– Program ————–
【第1部】
ドビュッシー/クラリネットのためのラプソディー第1番 《赤坂達三(Cl) & 斎藤雅広(P)》
ドビュッシー/グリーン(水彩画)             《足立さつき(S) & 斎藤雅広(P)》
ドビュッシー/月の光(ヴァニエ歌曲集から)      《足立さつき(S) & 斎藤雅広(P)》
ドビュッシー/未練(ヴァニエ歌曲集から)       《足立さつき(S) & 斎藤雅広(P)》
ガロワ=モンブラン/ディヴェルティメント        《萩原貴子(Fl) & 斎藤雅広(P)》
フォーレ/舟歌                       《斎藤雅広(ピアノソロ)》
フォーレ/ピアノ五重奏曲第2番ハ短調        《ドビュッシー弦楽四重奏団 & 斎藤雅広(P)》
【第2部】
コスマ/枯れ葉(2台ピアノ)               《国府弘子(P) & 斎藤雅広(P)》
サティ/あなたが欲しい~プーランク/愛の小路  《高嶋ちさ子(Vn) & 斎藤雅広(P)》
プーランク/オルクニーズの歌(歌曲集「よしなし草」から)
プーランク/ホテル(歌曲集「よしなし草」から)
プーランク/パリへの旅(歌曲集「よしなし草」から)
プーランク/C(セー)                   《林美智子(Ms) & 斎藤雅広(P)》
ラヴェル/序奏とアレグロ(2台ピアノ)         《三舩優子(P) & 斎藤雅広(P)》
ラヴェル/ドゥルシネア姫を想うドン・キホーテ     《宮本益光 & 斎藤雅広(P)》
ラヴェル/ラ・ヴァルス(2台ピアノ)           《広瀬悦子(P) & 斎藤雅広(P)》
【アンコール】
ファリャ/火祭りの踊り                  《斎藤雅広(ピアノソロ)》
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ごらんのような豪華なメンバーによるおしゃれなフランス音楽プログラムだ。このプログラム結構いろいろ考えられている。

まず気がつくのは作曲家リレーとなっていること。演奏者が入れ替わり立ち替わりの割には作曲者をバトンタッチしながらのプログラムなので統一感がとれている。

それから共演者の皆さんの登場順なのだけど、斎藤さんとつきあいが長い人から先に出演して最後が最近知り合ったという奏者になっていること。30周年記念コンサートということで今までを振り返るという意味合いと今後の活動も見据えての人選・プログラムとなっているのだと想う。

これらの曲は一部を除いてほとんどが初めて聴く曲ばかりだったが、印象派以降のフランス音楽のきらきらとした世界を楽しむことができた。入れ替わり立ち替わり登場する演奏家がきらめくフランス音楽を競演していく。考えてみるとこんなに贅沢な体験をできる機会はそんなに多くないかもしれない。

★感想

たくさんの方の演奏の中で個人的によかったのは、まず林美智子さんのメゾソプラノによるプーランクの歌曲だ。客席からそのままステージに上がっていった林さんはオペラ歌手というだけあって、存在感のあるそれでいて気さくな雰囲気でプーランクのかわいらしい4曲を歌っていた。ふだん歌曲はほとんど聴かないのだけど「歌っていいんだなあ」と心から想った次第だ。

国府弘子さんは去年のクリスマスに六本木スイートベイジルでのコンサートを聴いたので親近感のあるジャズピアニストだ。じゃんけん大会で勝ち残ってプレゼントと握手をしてもらった思い出があるのだ。
http://ict-mitsuke.whitesnow.jp/brian/wp-content/uploads/2022/03/2006/12/__a627.html
「枯れ葉」を斎藤さんとやりあって丁々発止の演奏を聴かせてくれた。しかし、国府さんとやりあう斎藤さんもすごいなあ。

ドビュッシー弦楽四重奏団とのフォーレ/ピアノ五重奏曲だけど、とっても良かったんだけど、何というかちょっと今日の雰囲気にそぐわなかったというか浮いていたというか。バランスで考えると4楽章全部演奏するというのはどう考えても長すぎた。周りではいい気持ちになっている方が多かったようだ。

高嶋さんは「緊張するから」ということで、演奏前のトークは行わずすぐに演奏に入った。テレビなどでいろいろ仕事をされている方でも緊張するんだね。ちょっと安心。
斎藤さんが編曲されたというサティとプーランクの小品はちょっとヴァイオリンの魅力を出し切れていなかったような。でも子連れで駆けつけてくれたという高嶋さんの演奏はスマートでさすがだった。

★余談

それにしても出演された女性の演奏家の方々は皆さんものすごく美しい方ばかりだ。天が二物を与えたのか、演奏に秀でるような方は内面からの美しさが外面まで及ぶのか、斎藤さんの好みでこのような方々が集まられたのか知らないけれど、見ているだけでも楽しませていただいた。

それに、斎藤さんのトークが素晴らしいのは言うに及ばないけど、出演された方々もそれぞれに斎藤さんと大人の会話をやり合っておられて感心した。単に演奏がうまい、美人美男だけでなく人柄や教養もそれなりのものを持っているなんてほんとうらやましいなあ。

★広瀬悦子さんについて

プログラムの最後を飾ったのは広瀬悦子さんを迎えての2台のピアノ版のラヴェル/ラ・ヴァルスだった。広瀬悦子さんは初めて聴いたけど、トークの時はほとんど話さずおとなしそうな華奢な体つきの女性に見えたが、斎藤さんが「演奏したら変身しますよ」と言ったとおりびっくりしてしまった。
あの華奢な体のどこから出てくるのだろうと言うくらいのダイナミックで個性的なラ・ヴァルスが始まった。これは驚きだ。しかし斎藤さんもよく合わせている。

広瀬さんをYouTubeで検索したら何本かあがっていた(これらの映像ってステージを盗撮したような雰囲気もあるのでもしかしたらやばいのかもしれない)

・モーツアルト~ヴォロドス編「トルコ行進曲」
http://jp.youtube.com/watch?v=kKxYpXbYZRM
・チャイコフスキー~プレトニョフ編「胡桃割り人形よりグランパドゥドゥ」
http://jp.youtube.com/watch?v=nqsLl12arZE

どうも編曲ものを得意としているようだ。彼女のCDも是非購入して聴いてみたい。今年は及川浩治、田部京子、広瀬悦子とすばらしいピアニストをいろいろ知ることができた。(斎藤さんもですよ!)

★斎藤雅広さん

そして肝心の斎藤雅広さんだけど、これだけのメンバーのコンサートをプロデュースして、準備して、自分で演奏して、トークしてそのバイタリティーには恐れ入る。これだけの演奏家と共演できるということはそれだけ自分の懐も広いということにほかならない。自分が主役にならずにともに活動してくれた演奏家達を主役にして30周年のコンサートを構成したというのはすばらしいことだと思う。それだけでもこの30年間の斎藤さんの活動がすばらしかったことを物語る。

それにしても斎藤さんのトークってすばらしい。というか面白い。だじゃれあり、毒舌あり、コントあり、芸術論ありで、何という人なんだろう。ここが東京文化会館であることを忘れて笑い転げてしまった。
斎藤さんのブログでは人形町周辺のグルメの話題が多いのだけど、今日のコンサートに鰻屋の大和田本店と寿司屋の太田鮨から花が届いているというのは笑えた。鰻屋と寿司屋から花が届くクラシックコンサートなんてめったにない。
トークの中で「形態模写が得意なんです」ということでホロビッツのモーツアルトをまねして演奏した。これも面白かった!

3時間に及ぶコンサートは「30曲用意しておいた」というアンコール曲の中から時間の関係上1曲だけ「僕は30年間これを演奏して食ってきました」というファリャの「火祭りの踊り」だった。なんだこれは!!! 猛烈なテンポで繰り広げられるトリルや両手を振り上げてたたきつけるスペインのリズム。ギターでも弾かれる機会の多いこの曲だけどこんな演奏は初めてだ。ラ・カンパネラなんかくそ食らえ!って感じ?この演奏を聴けただけでも聴きに来た甲斐があったってものだ。

斎藤さんと同じマンションにいるので時々お顔を拝見するのだけど、恥ずかしくて今まで声をかけたことはない。こんど機会があれば感想をお話ししたいと思う。

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