『天才数学者はこう賭ける』

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天才数学者はこう賭ける
~誰も語らなかった株とギャンブルの話~

この本、2年ほど前に購入して一度読み始めたんですけど、冒頭、あまりにも退屈でそのままほっぽってしまっていました。最近の世の中の状況も一段落してきたこともあり、この本を思い出して再度チャレンジしました。

このところのサブプライムショック、リーマンショックで数多くの金融破綻が現実のものになっていきました。それらに共通していわれてきたのが「レバレッジ」という言葉です。
レバレッジはてこという意味ですが、2通りの使い方を想定します。ひとつは少額のお金で大金を動かすこと。もう一つは人の知り得ない情報で他人からお金を巻き上げること。後者は正確にはレバレッジではなくエッジなのですけど、ここではレバレッジという言葉を適用します。

この本ではこの2つのレバレッジを理論としてだけでなくギャンブルや投資に実際に実践してきた数学者達を描いています。

■ケリー基準
この本の中で一貫して出てくる話題はケリー基準あるいはケリー方式と呼んでいる理論です。これはある元手の資金があった場合に、どのようにすれば破産せずかつもっとも資金を増加させることができるかという考えを示したもの。これをめぐって、実際にブラックジャックで実践したり、理論的に間違いだという反論があったり、金額が増えるだけが効用ではないという方面からの指摘があったことが述べられています。
ですが、結論としてはケリー方式の中で重視される資金の増大よりも、「破産せず」ということがキーになってくるんですね。この本が出版されたときはサブプライムショックが始まる前でしたけど、いくら儲かる手法でうまくやっていっても破産してしまったらそこで終わり、ということは何も変わってない最重要なことなんですね。
もう一つケリー基準でキーとなるのは、エッジのあるときだけエッジ分の賭け(投資)を行う。ということです、これは破産しないことと根は同じことを言っているのですが、逆に言うと「エッジがなければ儲からない」と言っています。

■ソープ、シャノン
この本には実に多くの登場人物が出てきます。数学者はもとよりそれらの奥さん、マフィア、検事、経済学者などなど。しかし一貫して登場するのはクロード・シャノンとエド・ソープの二人です。この二人は数学者でもあるのですがギャンブルや投資の実践家としての功績に目を向けています。特にソープの実績はものすごい。ブラック・ジャックの必勝法をラスベガスで実証して見せたかと思うと、その理論を「ディーラーに勝つ」という本で出版したり。ヘッジファンドを立ち上げて長年にわたってすごい実績を継続させたり。「本業はなに?」という感じですね。
シャノンも「シャノンの魔物」と言われる必勝法を公開したりと余念がなかったようです。シャノンと言えば情報工学で「シャノンの定理」が真っ先に出てくるほどの人なんですが。

■翻訳?原著?読みにくい
そんなごったな内容が次から次へと出てくる本なのですが、これはレビューしている人の誰もが言っているように、とにかく読みにくい本です。私には翻訳が悪いのか原著がそのように読みにくいのか判断がつきかねます。
冒頭の競馬のノミ屋への情報通信をめぐるマフィアの暗躍の話(2年前はこれにノックダウンされました)、あまたある登場人物に関する家族や私生活の話、あることを説明するのに状況説明もなしにまったく関係ないと思われるような話題から始める筋立て、いずれも辟易します。余計なところはそぎ落としてシンプルに書けばもっともっと楽しめる本なのになあと思わずにはいられません。

■まとめ
この本からケリー基準についてあらためて考えさせられました。「いかに儲けるか」「いかに破産させないか」の両輪をミックスさせたのがケリー基準なのです。実践する場合はいろいろとバリエーションを加えて行う必要がありますが、基準の意図するところは知っている必要があるでしょう。そんなケリー基準の思想を理解するための本だと思います。

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