及川浩治『クリスマス・ピアノリサイタル』

今年3回目の及川浩治のピアノ。前回はベートーベンのソナタリサイタルでした。

・『ちょっとセレブにクラシックの夕べ』
http://ict-mitsuke.whitesnow.jp/brian/wp-content/uploads/2022/03/2007/06/post_4080.html
・『激情のベートーベン』及川浩治ピアノリサイタル
http://ict-mitsuke.whitesnow.jp/brian/wp-content/uploads/2022/03/2007/08/post_7489.html

及川浩治のクリスマスリサイタルはNHK-BSのクラシック倶楽部で何年か前のものを非常に感銘深く見ましたが、これが及川浩治について最初に知るきっかけになったのです。そのコンサートではプレトニョフ編曲の胡桃割り人形を華麗に弾ききっていてピアノの可能性について認識させられました。

今年のクリスマス・ピアノリサイタルは同じ会場「東京カテドラル聖マリア大聖堂」。目白の椿山荘の向かい側に位置しています。

20071213oikawa01_2
このチラシの写真は今回の大聖堂ではありません。カテドラルの聖堂はコンクリート打ちっ放しの無機質なイメージで建てられています。

20071213oikawa02
正面に低いステージ(祭壇ですね)があり正面の壁には縦長の大きな十字架が配してあります。また、客席(っていうのか礼拝席っていうのか)の後方2階には大きなパイプオルガンが設置してあります。数年前にここでパイプオルガンとトランペットによるクリスマスコンサートを聴いたけど、このコンクリートに囲まれた反響度200%の会場にまさにうってつけでした。

さて、ピアノはどうなのだろう。

プログラムはモーツアルトのソナタから始まりバッハ、シューマン、チャイコフスキー、ラフマニノフと多彩で、クリスマスの雰囲気の親しみやすい曲で構成されていました。

20071213oikawa01

まず「響き」のことについて。コンクリートで囲まれたこの会場でピアノソロをやるとどうなるか、単音を一回弾くと「ポンーポンポンーー」というように響きます。(席は中程の右端です)これで想像できるように些細なニュアンスを感じるというような演奏はできないし、そのような曲目も向かないと思います。実際、最初の曲モーツアルトの「ソナタ10番」が始まると、あの親しみやすいメロディーがなんか宙に浮いたような、直接こちらに語りかけてくれなくてふわふわ浮いているようなそんなイメージに聴こえてきました。

だけどだんだんとそのような雰囲気に慣れてきてバッハの「半音階的幻想曲とフーガ」では、細かな音の積み重ねが波のように押し寄せてくる、そんな感覚に身を任せられるようになってきたのです。

「主よ人の望みの喜びよ」では、細かいメロディーの部分とコラールの部分が非常に鮮明に表現し分けられていました。特にコラール部分は残響も手伝って非常に豊かな力強い響きになっていたと思います。

後半の曲でチャイコフスキーの「四季」はそれぞれ親しみやすいメロディーの楽しい曲で期したが、「11月 トロイカ」はよく耳にするメロディーでした。

リストは及川お得意の作曲家。「愛の夢 第1番」はたぶん初めて聴いたと思うけど、中に有名な第3番と同じようなパッセージが出てきました。「ラ・カンパネラ」はそんなに速いテンポではなかったけど十分に音を響かせた残響を活かしたダイナミックなラ・カンパネラでした。熱演です。

今日の圧巻は最後のクライスラー/ラフマニノフの「愛の喜び」でしょう。バイオリンの原曲は実はあまり好きではないのですが、ラフマニノフ編のこの演奏はたいそう魅力的でした。ヴィルティオーゾ的なテクニックを存分に効かせていたのですが、使われている和音が非常に近代的で聴いていて「ハッ」とするのです。どこかで感じたことのある和声だなあ、と想いながら聴いていたのですが、たぶんピアノデュオ「Anderson & Lee」の「美しく青きドナウ」の演奏を聴いていたときに感じた和声の響きだと思います。

・Anderson & Roe ピアノ・デュオ
http://ict-mitsuke.whitesnow.jp/brian/wp-content/uploads/2022/03/2007/08/anderson_roe_53de.html

とにかくとても魅力的な「愛の喜び」でした。途中で前半のクライマックスが終わって中間部に入ろうとしたら客席からは大きな拍手が寄せられて、及川が客席を向いて拍手を終わらせたという一幕がありましたが、拍手したくなるのもわかります。(って自分も拍手したのですけど)

アンコールは聴衆全員を暖かく包み込むようなショパンの「雨だれ」で静かに終わりました。
そして、コンサートの最初と同様、十字架に軽く頭を下げて退場していきました。この辺の所作はとてもスマートですがすがしさを感じます。

今宵のコンサートの副題は「クリスマス・タイド2007」なのですが、「ピアノ・サウンド・タイド」とでも言ったらいい、そんな音の流れの中に身を任せてピアノを堪能した一夜になりました。

コメント