書籍『ボクたちクラシックつながり』

ピアニストでありながら文筆活動も活発に行っている青柳いづみこさんが文春新書に書き下ろした「ボクたちクラシックつながり~ピアニストが読む音楽マンガ~」を読みました。

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クラシックピアニストの世界の扉の裏側を覗かせてくれる本です。
それもピアニストを題材としたマンガ「のだめカンタービレ」「ピアノの森」「神童」でのエピソードを題材としているので、各テーマにすっと入っていけて「なるほどなあ」とか「へえ」って思うような話題満載ですね。

・一回読譜したらとっととやるぞ
「初見」と「暗譜」に関する話題です。

・楽譜どおり弾け!
「楽譜どおりに弾く」ということに対して、作曲家やピアニストがどのような態度をとってきたのかということたくさんのエピソードで紹介されています。

・バレンボイム対ホロヴィッツ!?
バレンボイムが千秋、ホロヴィッツがのだめという視点で演奏のタイプを分析しています。

・コンクール派と非コンクール派
コンクールの功罪、コンクールの過酷さ、最近増えている非コンクール派、コンクール入賞とその後のピアニストとしての活躍の相関などの話題です。

・留学-クラシックをやるなら海外でなきゃ駄目?
ピアニストにとって留学することとはどういうことなのか、実際のピアニストの足跡などを追いながら考察しています。

・指揮者の謎
指揮者とオーケストラの関わりを両者の立場から見ていきます。

・コンサートで受けるプログラム
コンサートではどんな曲が受けるのかから始まり、ピアノ曲の難易度ランキング、コンクールでの選曲に対する考察などの話題です。

・音楽は人間が出る
パリののだめの下宿先の最上階に住んでいる絵描きの絵を切り口に、人間性がどのように音楽ににじむか、どのようなスタイルでより輝くのかといった話題です。

・ピアニストは本当に不良債権か
音大を出てどのように生活していくのか、プロの演奏家の台所事情という切実な問題から始まって、それでも音楽とかかわりながら生きていく気持ちを探ります。

3つのマンガの読者(またはテレビや映画の視聴者)であれば、作品に描かれている状況をより興味深く見ることができるし、単なる読み物としても、普段表に出ることのないピアニストなど音楽家の裏側をのぞき見るような体験をすることができるおもしろい本です。

特に最後の「ピアニストは本当に不良債権か」はすごい内容です。2006年の音楽学部、学科の入学者は6000人いたということですが、毎年誕生するそれらの人たちがどのように音楽と関わっていくのかというのは切実です。のだめがパリ音楽院でリストの超絶技巧練習曲を弾いたとき、オクレール先生は「そういった難しい曲を弾く子は、きみじゃなくても今はいっぱいいるから」と言います。ピアニスト世界の一面を見事に表現しているシーンですね。
また、日本のクラシック演奏家の年収ピラミッドという話ものっていて、1千万を超えるいわゆる売れっ子アーティストは数十人、三百万から1千万までは千五百人、三百万内外が5千人、ほとんど収入ゼロの人が二万人ということです。
それでも、たくさんの演奏家が存在し活動しているということについて、著者は「夢と希望」という切り口で解き明かしています。
でも、おおきな問題提起にもなっていてすごく考えさせられました。

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