スウィングル・シンガーズ クリスマスコンサート

 12月21日に「スウィングル・シンガーズ クリスマスコンサート」に行ってきた。(オーチャードホール)

 スウィングル・シンガーズと言っても知らない人が多いと思うが、バッハをスキャットで歌ったデビューアルバムが大ヒットしたのが今から30年以上前なのだからしかたがない。今のメンバーは全員新メンバーとなっているということだけど、この日のコンサートは古くからのファンも楽しめたと思う。伝統を引き継いでさらに新しい世界を聴かせてくれていた。
 1963年のグループ結成はパリだったが、現在はイギリスを拠点としているということだ。

 プログラムは「スター・ウォーズのテーマ」で始まった。ついこのあいだ同じところでBBCポップス・オーケストラのスター・ウォーズ (帝国の逆襲)を聴いたばかりだったが、重厚なオーケストラサウンドもいいけど、完全無欠のコーラスハーモニーも味がある。ただ、自分の中のスィングルシンガーズのイメージはあくまで もバッハのスキャットだったので、初めからこう攻められるとちょっと引いてしまう。

第1部はバロックのクリスマス関連のキャロルなどを中心にアメイジング・グレイスなどを入れてフォーマルなクリスマスを楽しませてくれた。(聴いていたらイイ気持ちになってきて、実は半分くらい寝てしまったりし たけど)
 そんな第1部でクリスマスもの以外の曲としてイパネマの娘を歌った。アントニオ・カルロス・ジョビンがイパネマ海岸通りのカフェから道ゆく娘に見とれて書いたというこの曲のモチーフをそのまま現したような演出(4人の女性シンガーがそれぞれ娘を演じた)にのせて、ボサノバ特有のコード進行をみごとにハモらせながら楽しく聴いた。

 最近アカペラがまたブームのようだけど、僕はゴスペル系のアカペラはそんなに好きではない。僕の中のアカペラというとまずは「シンガーズ・アンリミテッド」があり、「スウィングル・シンガーズ」がある。いわゆるジャズ系のコーラスグループが好きなのだ。
 シンガーズ・アンリミテッドは10年ほどアルバムが出ていないけどもう活動していないのだろうか。4人のメンバーがマルチレコーディングでハーモニーを作り上げているのだが、決して無機質にならずあたたかみのある世界を作り上げる。中でも「Christmas」は最高だ。彼らのアルバムとしても、クリスマスのアルバムとしても一押しである。厳粛な雰囲気 の中にも心洗われる暖かさを感じさせてくれ、何回聴いても飽きない

  さてコンサートに戻ろう。第2部はポップなクリスマスものが中心だ。「ホワイト・クリスマス」を初めとしてジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」、「赤鼻のトナカイ」などおなじみのナンバーが次々と繰り出される。その中ではルロイ・アンダーソンの「そりすべり」が好みだったかなあ。あんまりポップなものよりクラシカルな要素のある曲の方がスウィングル・シンガーズには合っている。
 でも、チャイコフスキーの「1812年」はなんというかジョークとしては最高。「ほら、こんなこともできるのよ」みたいなノリかな。でも彼ら(彼女ら)の完璧なテクニックと音楽性がなければできないジョークだ。まいった。

 1階の客席の真ん中辺にミキサー機材が並んでいたが、彼らのマイクひとつひとつのエフェクトやボリュームを調整していたようだ。特にベースパートやパーカッションパートなどはミキシングのおかげだろう。これらの「音源」はもちろん「声」だが、エフェクトを通した結果、完全にリズムセクションの役割を全うしていた。もちろんエフェクトはあくまでもエフェクトであって、「音源」がベースなりパーカッションなりのすばらしい素材となっているからこそであることは言うまでもない。

「1812年」がラストナンバーだったけど、アンコールで3曲演奏があった。その中で一番良かったのは「蛍の光」だった。もしかしたら当日のプログラム中でもベスト1だったかもしれない。この曲のイメージは年末の特番など(特に紅白)で歌われたりしてセンチメンタルな雰囲気が安っぽいというものだった。けど、スウィングル・シンガーズの演奏はそんなイメージを一掃してしまった。日本語の歌詞で歌ったにもかかわらず決してセンチメンタルにならず、複雑で精緻なハーモニーにのってさわやかな蛍の光に 仕上がっていた。もしかしたらシンガーズ・アンリミテッドのChristmasにイメージを重ねていたのかもしれない。

コンサートが終わり外へ出るとオーチャードホールの玄関前にクリスマスツリーがきれいに輝いていた。思わず 記念写真。でも外は冷たい雨が降っていて、またあの渋谷の雑踏の中に足を踏み入れないとだめななのかと思うとせっかくあたたかくなったこころも冷えていきそうだ。

 ここは、冷え切る前に再度暖めなおそうということで、スペイン料理店「エル・パティオ」に行ってサングリアを飲みながら タパスとパエリヤのコースを堪能して帰宅した。

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