『指揮者が見たフィンランドⅡ』

今年はシベリウス没後50年のメモリアルイヤー。暮れも押し迫った12月22日、錦糸町のすみだトリフォニーホールで東京新聞フォーラム「新田ユリさんとコンサート『指揮者が見たフィンランドⅡ』」が開催されました。

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二部に分かれており、前半はフィンランドの叙事詩「カレヴァラ」についてカレヴァラの翻訳を出している小泉保さんとフィンランドの文化と政治を研究している石野裕子さん、それに指揮者の新田ユリさんそれぞれのカレヴァラに関する講演になっていました。

後半は新田ユリさん指揮のアイノラ交響楽団に合唱団「樹の会」、駒ヶ嶺ゆかりさん(Ms)、大久保光哉さん(Bt)という構成でカレヴァラの中のクッレルヴォを題材とした交響詩「クッレルヴォ」の演奏です。

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カレヴァラについてはフィンランドの伝承詩というくらいの知識しかなく、ましてやクッレルヴォってどんな話なのかなんてまったく知らない状態で今回のイベントに参加したのですが、前半の講演ではそんな私にもわかりやすくカレヴァラに関する内容を説明してくれました。

小泉保さんはけっこうお年を召しておられる様子で歩きもちょっと足下がおぼつかない感じでしたが、話し始めたらその声の若々しいのに驚きました。話もとても聞き取りやすく、フィンランドの歴史や文化の位置づけを話されました。

石野裕子さんのお話はフィンランドの人たちにカレヴァラがどういう位置づけになっているのかという視点でのお話です。カレヴァラ自体を読んだ人は少なくても、クッレルヴォ通りとかサンポ銀行など、人々の生活に深くその内容は浸透しているとのことです。

新田ユリさんのお話は、シベリウスがカレヴァラをどのように自分の作品に取り入れたのかというお話です。クッレルヴォを作曲したのはかなり若い頃で、その頃のシベリウスはよく知られている威厳のある顔のシベリウスではなくイケメン風だったといいます。そして作曲されたクッレルヴォはパート譜に不備が多かったのでいったんお蔵入りになったり改訂版が何度も発行されたりといった生い立ちのようです。今日の演奏は近年出版された「全集版」というものを使用する予定だったのですが、都合によりかなわなかったけど、参考にしたということでした。

それでいよいよ「クッレルヴォ」の演奏が始まりました。前半でいろいろなお話を聞いていてプログラムに載っているストーリーも読んでいたので5つの楽章それぞれの内容を感じながら聞くことができました。中でもやはり第3楽章は圧巻でした。内容的には、クッレルヴォが3人の娘を誘惑して金銀でつった3人目の娘と一夜をともにする、でも翌朝実の妹だったことがわかり娘は自殺するという、たあいがないといえばそんな内容なのですが、この情景をオーケストラと男声合唱とメゾソプラノとバリトンで表現した音楽はすごくドラマチックでした。

今回の演奏はフィンランド語により全キャスト日本人で演奏するのは初めてのことだそうです。合唱の方々もフィンランド語は大変だったかもしれません。

アンコールは「フィンランディア」。通常はオーケストラだけの編成で演奏される曲ですが、有名な賛歌の部分に男声合唱が加わる形での演奏です。オーケストラのメンバーはまるで水を得た魚のように生き生きと演奏していましていて、もう体にしみついているという感じです。みんな日本人(のアマチュア)なのにまるでフィンランドの団体であるかのような錯覚を覚えるほどでした。それだけこの曲は思い入れがあるのでしょうね。

演奏が終わって暗くなった外に出るとしんしんとしたという形容が似合うような寒さでした。まさにフィンランドの厳寒を思い起こさせるような中を帰宅の途につきました。

コメント

  1. KURIKURI より:

     昨夜は素晴らしい演奏会でしたね!合唱も管弦楽もアマチュアと括ってしまうのが躊躇われるくらい、よく練られた熱演だったと思います。CDで聴いていたときには佳曲だというのがちょっとわかりにくかったのですが、実演で聴くと大迫力のスペクタクルになって目の前に現れてきて圧倒されてしまいました。

     合唱付きのフィンランディアがアンコールに用意されていることを新聞社の方が冒頭であっけらかんと明かしちゃったのはご愛敬でした(笑)。ただ、講演の方もまとまりがよくていろいろと愉しみながら過ごすことができました♪もし次があったらまた行ってみたいものです。

  2. phoebe より:

    よい演奏会だったようで、何よりです~!サンポ銀行!なつかしい。フィンランドへいったときに、おおっ、と思ったのを思い出しました。カレヴァラも、まだちゃんと読めてない不勉強な自分を反省。じっくり読み返してみねばと思いました。

  3. ブライアン より:

    KURIKURIさん、ほんとあのアンコール曲ばくろはおもしろかったですね。フン族起源説で小泉さんからひんしゅくをかっていたり、バイタリティありそうですが面白い方ですね。今回の企画の推進に大きく関わられた人なんでしょうけど。
    今朝の東京新聞に昨日の様子がカラー写真入りで1面(の左隅)に載っていました。

  4. ブライアン より:

    phoebeさん、フィンランド、私も行ってみたい!
    グリーグの土地も訪れてみたいし、北欧ってほんとうに自然と文化が調和していますね。