シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル

6月に購入したシプリアン・カツァリスのピアノリサイタルが昨日ありました。

・シプリアン・カツァリスのコンサート予約
http://ict-mitsuke.whitesnow.jp/brian/wp-content/uploads/2022/03/2008/06/post_9f5d.html

2008年10月28日 浜離宮朝日ホール

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< ラテン・アメリカと世界の音楽>

・アギラール(ペルー):6つのインカの前奏曲より 1,2,3,4番
・セルヴァンテス(キューバ ):ソレダート(孤独)、アディオス ア キューバ
・ヴィラ=ロボス(ブラジル):「ブラジル風バッハ第4番」より アリア、ブラジルの魂
・ナザレ:情熱的な口づけ、7月9日(独立記念日)、がんばれカヴァキーニョ
・ジナステラ(アルゼンチン):アルゼンチン舞曲集より 粋な娘の踊り
・ピアソラ(アルゼンチン):ラ・ミスマ・ペナ、天使のミロンガ、グアルディア・ヌエバ
・M・ポンセ(メキシコ):間奏曲
・民謡(メキシコ):ラ・パロマ(カンポス編)
・アントニオ・ゴメス(メキシコ):メキシコ風のテーマによる変奏曲(カツァリス編)

—- 休憩 —-

・小山清茂(日本):かごめ変奏曲
・ルイス・モロー・ゴットシャルク(アメリカ):風刺
・E.エルガー(イギリス):威風堂々
・ラヴェル(フランス):亡き王女のためのパヴァーヌ
・A.ドヴォルザーク(チェコ):スラヴ舞曲 Op72-2(カツァリス編)
・J.ブラームス(ドイツ・ハンガリー):ハンガリアン舞曲 第11番
・G.マーラー(オーストリア):交響曲第5番よりアダジエット(K.A.ペンソン編)
・J.シュトラウス2世(オーストリア):美しき青きドナウ(E.シュッツ編)

—- アンコール —-

・ショパン(コルトー編):チェロとピアノのためのソナタ 第2楽章
・ショパン:ワルツ Op.64-2
・バッハ:平均律第1巻より ハ長調 プレリュード

■ラテンアメリカ音楽
「ラテンアメリカと世界の音楽」っていうタイトルからして通常のクラシックピアノコンサートではありえないです。普段弾かれることのほとんどないラテンアメリカのピアノ曲を前半に持ってきて、後半は日本~アメリカ~ヨーロッパ各国をめぐる音楽の旅という構成のプログラム。すごくわくわくします。

まずラテンアメリカの音楽ですが、ブラジル風バッハ、ピアソラの曲、ラ・パロマなど有名な曲もありましたけど、ほとんどが初めて聴くものばかり。ラテンアメリカ特有のメロディーの優美さとリズムの心地よさがすべての曲で味わうことができました。

中でもナザレという人の小品3曲は魅力的でした。クラシックというよりはラテン音楽と言ってもいいかもしれませんが、カツァリスのたくみな音楽作りでぐいぐいと引き込まれました。

■スラブ舞曲
後半の世界の音楽、かごめ変奏曲から始まりました。私が一番気に入ったのがドヴォルザークのスラブ舞曲第2集第10番です。これはカツァリス自身が編曲したらしいのですが、オリジナルの管弦楽顔負けの表情付けでした。スラブの優美なメロディーが体中をつつんで、ピアニスト一人が弾いているとは思えないさまざまなパート、音色、和音の洪水に身を漂わせられました。

■威風堂々
マーチ好きとしてはエルガーの威風堂々ももちろん外せません。ホロヴィッツの星条旗よ永遠なれもすごいですけど、この威風堂々もそれとは違った形でマーチの魅力を聴かせていました。導入の速い動きの部分も正確に弾かれていましたが、有名なメロディーは厚みを変えて何回も繰り返され、曲を盛り上げていました。

■突然の椅子高さ調整
亡き王女のためのパヴァーヌの演奏途中で、カツァリスは突然、素早く椅子の高さを調整していましたけど、あれはちゃんと調整されたのかなあ。椅子の高さ調整はコンサートを通してあの時1回限りだったので、効果があったのだと思うけど、すごい動きでした。

■渾身のアダージェット
マーラーの有名なアダージェットをピアノソロで弾くという試みをしていました。原曲はハープのアルペジオにのって弦楽合奏で弦のボーイングで音を十分に延ばす表現ですので、それをどうやってピアノで演奏するのか楽しみでした。編曲はへんな小細工はせず、わりと原曲に忠実にアルペジオとメロディーをピアノで再現していて、カツァリスはそれを音の強弱、音色の変化、勢いを使ってすごく盛り上げていました。
演奏が終わって鍵盤から手を離さず、およそ20秒くらい静寂の時間が流れました。あの静寂で曲が気持ちが感極まり、いっそう引き立ったと思います。ものすごい演出でした。

■すぐ弾く
以前、NHKで放送していたカツァリスのコンサートを見たときにも思ったのですが、この方は椅子に座ると同時に演奏を開始されます。演奏が終わるとすぐに立ち上がります。楽譜を整えたり汗を拭いたりといった行為はほとんど立ったままで行うことが多いのですね。つまり、カツァリスにとってピアノの前に座っているのは純粋に演奏している時間のように感じました。アダージェットの演奏後の20秒間の静寂ももちろん演奏のうちですし、最初はちょっと奇異に思えた座ってすぐ弾くという行為も、そう考えると納得がいきます。

■多彩な音色
それにしても今までピアノ演奏をいろいろ(と言ってもここ2年くらいですけど)聞いてきたのですが、ここまで多彩な音色を紡ぎ出すピアニストは初めてです。同じ鍵盤から出ているのか?と思うほど大きな音小さな音、かたい音柔らかい音、細い音太い音などが縦横無尽に出てきます。ソフトペダルでの変化ももちろんありますが、タッチであんなにも音色が変わるのかとあらためて感心しました。

■美しき青きドナウ
このコンサート一番の楽しみだった「美しき青きドナウ」ですが、シュッツ編曲によるもので、Anderson & Leeの連弾のようなパラフレーズといったような感じでした。

・Anderson & Roe ピアノ・デュオ
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主なメロディーが手を変え品を変え次々といろいろな装飾を施して出てきます。変奏曲という感じでもないですが、モダンなコードを交えてさまざまな表情で美しく青きドナウが繰り広げられました。それにしてもカツァリスのテクニックは鉄壁です。

■芸術家:カツァリス、エンターテイナー:カツァリス
今回のコンサートはベートーベン、モーツァルト、ショパンといった純粋なクラシック曲ではなくラテン音楽や有名オーケストラ曲の編曲ものなどでしたが、それゆえ曲の表現に関するカツァリスの思いがダイレクトに伝わってきました。どんな曲でもおろそかにしないまさにに芸術家と言えるものを感じました。それは、演奏しているときに左手などが鍵盤から離れている時間はたいてい、指揮をするような手振りになり、気持ちが曲に移入されていることが現れていることからも感じ取れます。人によってはこのようなパフォーマンスっぽいしぐさはじゃまと感じるかもしれませんが、音楽と一緒に見ていると単なるパフォーマンスでないことがわかります。
そういう芸術家としてのカツァリスと表裏をなすように、人々を楽しませてあげたいというエンターテイナーとしての一面も感じ取れました。聴衆に対して非常にフレンドリーです。

■ショパンのワルツ
アンコールで弾かれたショパンのワルツOp.64-2ですが、カツァリスの魅力ここに極まれり!っていう演奏。本来のメロディーは控えめに、裏で弾かれる和音のうちの一音を対位法的に際だたせて響かせました。特にこういう有名な曲はメロディーはいやでも耳に入りますから、そちらを控えめにし、意外な響きを効果的に強調したのですね。

■サイン会
会場でCDを購入し、サインをいただきました。

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「メルシー」って挨拶してくれて握手をしてくれました(^_^;)

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CDの盤面にサインしてもらいましたが、右が2008.10.28という日付、左が署名だと思うのですが、読めますでしょうか。

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