みずほフィナンシャルグループ「2003年成人の日コンサート」

Daphnis et Chloe(ダフニスとクロエ)
みずほフィナンシャルグループ「2003年成人の日コンサート」
(サントリーホール)

(プログラム表紙)

2003年最初のコンサートは「成人の日コンサート」だ。新成人のためのコンサートではないので、47歳の僕が行ってもいいだろう。でも、会場は振袖の新成人などが目に付く華やかな雰囲気だった。タイトルにあるようにみずほの冠コンサートだ。

サントリーホールはずいぶん久しぶりだ。坂道めぐり「六本木・麻布」でも書いたが、昔はこの辺は地下鉄のくぼ地のようなところで、六本木、神谷町、国会議事堂前、赤坂のいずれからも徒歩10分から15分くらいかかった。コンサートが終わると臨時バスが出たりしてのを覚えている。今はずいぶんと便利になった。今日は南北線の六本木一丁目駅から行ったが、もちろん溜池山王駅からでも近い(と言っても地下鉄入り口を入ってから延々と200mくらい歩かされるけど)。 ホールとしてはオーチャードホールもいいのだけど、あの渋谷の喧騒の中を歩いていかなければいけないと思うと少し気後れする。それに引き換えサントリーホールはおちついた雰囲気の中でホールにたどり着けるのでとても気に入っている。

 今日のコンサートは坂道めぐり「六本木・麻布」を書いているときSTB139のくだりで大萩康司のことを調べていたら、新年早々コンサートに出ることが分かって急きょチケットを購入したのだ。出演は大萩だけでなく以下のようなプログラムになっている。


第1部-1
クラシックギターの魅力
カルロ・ドメニコーニ/トッカータ・イン・ブルー
フランシスコ・タルレガ/アルハンブラ宮殿の思い出
ロラン・ディアンス/タンゴ・アン・スカイ
モーリス・ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
大萩康司・ギター

第1部-2
舞曲「ボレロ」
モーリス・ラヴェル・作曲
バレエ:上野水香/田中祐子/坂西麻美/森田健太郎/逸見智彦/今勇也
演奏:井上道義・指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団

第2部
~マルク・シャガールのリトグラフ「ダフニスとクロエ」とのコラボレーション~
音楽物語「ダフニスとクロエ」
モーリス・ラヴェル・作曲
演奏:井上道義・指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
話:山本容子(銅版画家)


 第1部は目的の大萩康司のギターだ。4曲とも大萩の演奏では初めて聴いた。特にドメニコーニのトッカータ・イン・ブルーは曲自体初めてだった。そんなこともあって楽しみにしていたのだが、ちょっと 不満だった。まず広いサントリーホールの1階一番奥でクラシックギターの生の音を聴いたのだが、音が響きすぎるというかこもった感じになってしまっていて、クリアーな生の音が聴けなかった。それと、全体を通してだが、クラシックギター1本のあと、ダイナミックなボレロや色彩豊かなダフニスとクロエを並べられたのではかわいそうだ。終わったあとの印象が地味になりすぎた。
 席の後ろの方で撮影していてカメラが動作する”ジー”という音がとても気になったのだけど、あの撮影はみずほの広報担当なんだろうな。迷惑考えろよな。
 曲目だが、大萩のアルハンブラは聴きたいと思わないが、タンゴ・アン・スカイはすごく楽しみにしていた。このしゃれた曲は今トヨタTVCMで村治佳織が弾いている。福田進一や木村大なども得意としており、最近のはやり曲なのだろう。前述の音のこもりさえなかったらすごく楽しめたのに。
 亡き王女のためのパヴァーヌはギターではデュエットで弾くことが多いがソロで弾いたのは初めて聴いた。大萩の演奏はいつものように巧みな音色と強弱のコントロールにより自分の世界を作り上げていた。今日のコンサートはラヴェルがテーマのようなので、最後にこの曲を持ってきたのかな。

 次はボレロだ。井上の指揮するボレロは艶っぽい。前半でメロディーを担当する木管達は妖しい雰囲気をただよわせていた。トロンボーンのソロで最初音を外したのはご愛嬌。クライマックスの盛り上がりは管のボリュームはちょっと物足りなかったけど、ドラとシンバルが頑張ったね。
 この曲は舞踊音楽だったんだね。ステージで生のバレエを見たのは初めての体験だった。男女3人ずつのバレリーナが一人、男女ペア、3人といろいろな組み合わせでメロディーの区切りごとに現れてはさまざまな振り付けで踊っていく。指揮者の井上の話によると、ボレロの振り付けは色っぽいものが普通になってきている中、今日の牧阿佐美の振り付けはさわやかな感じだったという。僕は初めてなのでよくわからなかったが、音楽に集中するとバレエがおろそかになるし、バレエに注意を向けると音楽がいつのまにか過ぎてしまうという感じで、ちょっとつらかった。

 休憩をはさんでダフニスとクロエだ。まず版画家の山本容子さんが10分くらいシャガールの話をされた。90年近くにもわたって一つのモチーフを追求して作品を作り続けたのはすごいということ、空を飛んでいる構図が多いがユダヤの経典に空を飛ぶのは物事をより広い目で把握できるということを表していることからきている、アトリエの中でとじこもって描いたような感じに見えるかもしれないが実際はいろいろな「現場」を観察してスケッチしそれをもとにじっくりと作品を作り上げている、というようなことを言っていた。白馬美術館に行くとシャガールの生涯を追いながらその光と影の魅力を存分に教えてくれるが、それとはまた違った側面を知ることができた。
 その後井上が入ってきて話しに加わったがぜんぜん話にならない。シャガールやダフニスとクロエの話を山本としてくれればいいのに、成人式の振袖の話だとかふざけている。山本は自主的に戻ってしまった。
 演奏はバックの特大スクリーンに次々と映し出されるシャガールのダフニスとクロエとのコラボレーションという形で行われた。井上によると絵を写すだけでも使用料がとても高いのでということだが、そのとおり絵の種類が少なすぎた。42枚もあるのだからもっとたくさん見せてくれればおもしろかったのに、しみったれた感じがした。
 ダフニスとクロエという曲は何回か聴いたことがあるのだが、あまりにもイメージ的でそのとらえどころのない曲想からかあまり印象に残っていなかった。今日、シャガールとのコラボレーションとして聞いてみると、その色彩の豊かさにびっくりしてしまった。まさにシャガールの絵を音にしたようだ。だけど、やはり聴いているうちにイメージの中に意識が埋没してしまって深層意識の中で音楽を聴いている自分を発見した。(眠ってしまったということ)

 なにか文句ばかり書いてしまったような気がするが、全体としてはとても楽しめたよ。なにしろクラシックギターとバレエとシャガールのリトグラフとラベルの華麗なオーケストレーションが一日で楽しめたのだから。大萩の新しい一面を見れたこと、初めてバレエをそれもボレロで見れたこと、ダフニスとクロエの色彩豊かなことを再発見したことなどは大きな満足として残ったコンサートだった。

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